「よう!目ぇ覚めたか!」



ドアが開かれる音と共にやって来たのは二人の人だった。
元気な声をあげた青年と、その後ろから女性。
それぞれお菓子とお茶を持っての参上。

いきなりのことに、小狼はすぐに空気を張り詰めさせた。
見知らない人が自分の領域に入り込む、それは誰でも警戒心を持つものだ。
も紫苑の瞳を瞬かせて、入り口を見る。

しかし、のものは『警戒』ではない。


(うわ、めっちゃ面白そうな人と美人がきた!しかもおやつとお茶が来た!)


『興味』と『期待』だ。
自然と目をキラキラと輝かせたを、黒鋼はゲッソリとした瞳で見やっていた。



「んな警戒せんでええって。侑子さんとこから来たんやろ。ついでにそこ!」


「うぃっ!?」



いきなり青年にビシリッと指を指された。
さすがにも驚いて目を丸くする。
その間にも女性は持っていたお茶を青年に持たせ、押入れへと向かう。
を指していた指は今、お茶で埋め尽くされた。



「そないに期待しても無駄やでっ!わいは期待以上の面白さの持ち主や…っ!


「なっ……!!?」



さっとお盆ごとお茶を出す青年。
その表情はニヒルな笑みだ。
はそれを受け取りながら、驚愕した。


(こ、心読まれた…っ!!しかもデキる……っめっちゃ面白いっ


色んな意味で驚愕だ。
瞳はもう、太陽も見えそうなぐらいに輝く。
はすぐ様、小狼に向き直った。



「小狼!この人デキる…っ!!やべぇ、尊敬する…っ


「そ、そう…」



小狼は若干引き気味だ。
彼は今それどころではなく、侑子さんって先程異世界へと送ってくれた彼女だろうかと、そちらの方が気になっていた。
そこに、女性が押入れから布団を取り出して彼の前にやってきた。



「これを」



少女、サクラのためだろう。
小狼がすぐにお礼を言い、もやっと尊敬の世界から現実に戻ってきた。
まだ覚めていないものの小狼のすぐ後に頭を下げる。
女性は綺麗に小さく微笑んだ。



「わいは有洙川 空汰<ありすがわ そらた>」


「嵐です」



サクラを布団で包み込んでいる間に自己紹介。
その折、改めてがペコリとお辞儀をした。
小狼にはもう、警戒する雰囲気は感じられない。
どうやら敵ではないと認識したようだ。
心なしか穏やかな空気が流れた途端だった。



「ちなみにわいの愛する奥さん、ハニーやから。そこんとこ心に刻みまくっといてくれ」



すぐに冷めた空気へと変わった。
特に嵐と名乗った女性からだ。
彼女はさっさと空汰からお茶を取り去り、全員に配り始めた。
他も心なしか引いている。

が。



「は、ハニィ……っ…さ、さすが空汰さん……期待を裏切るほどの素敵な発言…っ!あ、お、俺はっていいます!」


っていうんか!わいのことは空ちゃんでええで!」


「は、はいっ!ヨロシクお願いします空ちゃん!」



には関係なかった。
『ハニー』という発言が心に響いたらしい。
感動、というよりは笑いの方だが。
そしてちゃっかりと自己紹介も済ませた。

遠くでは小狼もしっかり自己紹介しているが、空汰には聞こえていない。
にこんな奥さんもらえて幸せだとか、惚気ている。
そしてすぐに。



「つーわけでハニーに手ぇ出したらぶっ殺すでっ



振り向きざま、黒鋼の両肩に両手を置いて忠告。
素敵な笑顔で語尾にはハートマーク入りだ。
しかも、彼にのみに放つ言葉。
いきなりの行動に、黒鋼は紅の瞳を大きく見開かせた後、瞬時に理解してこめかみに青筋を立てた。



「なんで俺だけにいうんだよ!!」


ノリやノリ。でも本気やぞ!」



親指立ててオーライのサイン。
あははと笑いながらのいい笑顔。
出さねぇっつの!!と怒鳴りツッコミを入れるのは黒鋼のみだ。

は静かにそれを見ている。
先程まで笑っていたのに、と思って小狼はこっそり顔を覗きこんだ。
琥珀の瞳に映ったのは。


尊敬の眼差し、もしくは崇拝の眼差しをした



「……新しい笑いの波……切り返しといいボケといい……神だ……俺は笑いの神に会うことが出来た…っ



感涙しそうな勢いだ。
小狼は、顔を覗きこんだ自分がバカだった…とそこまではいかないが、似たような感情が過ぎった。
ちなみに隣ではファイが「嬉しそうでよかったねー」と暢気なコメントをしている。



ちなみにその後、が空汰の弟子入りを申し出たのは数秒後の話であった。








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