どこからかホワイトボードが出され、空汰と嵐の手には彼らを模った人形。
たった今、この異世界の説明会が行われていた。


阪神共和国。

島国で四季のある場所。
ちなみに今は秋。
主食は小麦粉、戦争はやっていない。
国の形が虎のようなため通称『虎の国』、だからこそ虎にちなんだものが多い…など。


やはり異世界とあって、制度も主食も何もかもが違う。
それを目の当たりにする日がやってこようとは。
空汰が説明している間、は感心しながら相槌を打っていた。

空汰の喋り方はこの国の過去の言葉で、今は中々使われていないこと。
そして歴史の先生だということを教えてくれた。
小狼は前の世界で発掘作業に関わっていたこともあり、歴史に興味があるようで目を少し輝かせている。


ちなみにここは空汰と嵐がやってる下宿屋の空き部屋らしい。
確かに一軒家とかそういう雰囲気はない。
また空き部屋、というだけあって必要最低限の物しか置いていない。


(…あれ?)


部屋を見回しついでに後ろを見れば壁によりかかる黒鋼が目に入った。
それだけならいいのだが。


(…寝てんの?こんなときに?)


目を閉じて小さく寝息が零れている。
そういえば疲れたとか言ってたっけ?と思ったときだった。



「そこ寝るなー!」



どうやらバレたらしい。
空汰はズビシと指を黒鋼に指した。
声に張りがあり、さすが先生なだけある。

瞬間。



パコン、という大きな音。
揺れる黒鋼の頭。



「なにぃ!?」



何かの衝撃が黒鋼の後頭部に走ったことは明らかだ。
彼が後ろを振り向くが、あるのは壁のみ。
突然の攻撃に小狼がサクラを庇い、ファイも瞳を鋭くして壁を見る。

もすぐさま振り返って構えを取った。



「何の気配もなかったぞ!」



そう、攻撃されたが気配は全くなかった。
辺りを見回すが何もない。



「てめぇなんか投げやがったのか!?」



紅の瞳が空汰を睨む。
しかし睨まれた当の本人はキョトンとしている。
はその質問に首を横に振った。



「空ちゃんが何か投げた様子なんてなかったよ?」


「それに投げたんならあの角度からはあたらないでしょー。真上から衝撃があったみたいだし?」



ファイもの言葉に付け足す。
皆に緊張感が走る中、空汰は何事もないかのように口を開いた。



「何って、『くだん』使たに決まってるやろ」


「「「「クダン?」」」」



簡単に『くだん』使いました、と言われても意味が分からない。
も黒鋼もファイも小狼も、声をあげて首を傾げる。



「空ちゃん、『クダン』って何?」


「知らんのか!?そっかーおまえさんら異世界から来たから分からんねんな!」



ということはこの世界特有の何かだろうか。
以外の異世界の人たちも分からないところを見るとそのようだ。
空汰は納得したみたいで、ホワイトボードに文字を書き始めた。



「この世界のもんにはな、必ず巧断<クダン>が憑くんや。漢字はこう書く」


「あーなるほど」


「あぁ、そう書くんだ」



巧みの『巧』に断るの『断』と書いて『クダン』。
漢字を見て納得したのは黒鋼と
モコナと小狼も読めるらしい。
ただし。



「あはは全然わからないー」


「黒鋼と小狼との世界は漢字圏やったんかな。んでファイは違うと。けど聞いたりしゃべったり言葉は通じるから不思議やな」



空汰が言ったことはもっともだ。
文字は読めないのに言葉は通じる。
しかしその謎の答えを知ってる者はここにはいなかった。



「で巧断ってのはどういう代物なんだ?『憑く』っつったよなさっき」


「『憑く』ってことは憑依するって意味の方っすよね?」



黒鋼が話を元に戻した。
幽霊のようなものだろうか、とも横から口を出した。
今度は今まで黙っていた嵐が小さく頷いてから口を開いた。



「例え異世界の者だとしてもこの世界に来たのならば必ず巧断は憑きます」



ハッキリと言い切る。
その瞳は真剣を帯びていて、嘘を言っているようではない。
逆に、誰も知らない真実すら知っているようなものだ。
彼女は少女の傍らに行き、膝を下ろした。



「サクラさんとお呼びしてもよろしいですか?」


「…はい」



小狼が返事をする。
多くの視線が集まる中、嵐はゆっくりと言葉を紡いだ。



「サクラさんの記憶のカケラが何処にあるのか分かりませんが、もし誰かの手に渡っているとしたら…争いになるかもしれません」



小狼が驚く傍ら。

はその綺麗な声に耳を澄ましながら瞳を閉じた。







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