争いになる。




それは羽根がの手に入ったときから分かっていたこと。


手に取れば分かる、あの巨大な『力』。

今更ながら、兄の「命を落としかねん」という言葉がの脳裏を過ぎった。






「今、貴方たちは戦う力を失っていますね」


「どうしてそうだと?」



嵐の視線がサクラから黒鋼とファイに向けられた。
核心をつく彼女の言葉に、笑みを絶やさない青年が聞き返す。



「うちの嵐<ハニー>は元、巫女さんやからな。霊力っつうんが備わってる」



答えたのは嵐ではなく、空汰。
はゆっくりと閉じていた瞳を開いて、嵐を見つめた。


(…そっか。どうりで神聖な空気を纏ってるはずだ)


侑子と同じような空気を纏う。
ただ、侑子の方はアクが強く、純粋さを感じるのは嵐の方。
巫女姿だと、今よりも更に神聖さを増しただろう。



「元ってことは、空ちゃんと結婚して引退ってことすか?」


「せや!巫女さん姿はそりゃ神々しかったでー」



が空汰を見ると、また自分の世界に入ってしまっていた。
惚気を振りまくあたり、彼女へのゾッコンぶりが伺える。
嵐に視線を戻すと、空汰とは逆に彼女は無視を決めたらしい。
小さな夫婦漫才には小さく笑いを零した。



「実はー次元の魔女さんに魔力の元を渡しちゃいましてー」


「俺の刀をあのアマー」



てへと笑うファイと対照的に舌打ちする黒鋼。
彼らは戦う術の「魔法」と「刀」を対価に取られたようだ。
侑子の傍らにいた少女達が持っていたそれらだろう。
が回想して、一人で納得した。



「おれがあの人に渡したものは力じゃありません。魔力や武器は最初からおれにはないから」



今度は小狼が説明する。
回想から帰ってくると同時に嵐の瞳とぶつかる。
次は自分の番だと気付いたは、あぁ、と言葉を出した。



「俺も治癒しか出来ない『出来損ない』ってヤツだから、戦いとなるとちょっと…。兄ぃなら出来るんだけど…」



元々、戦う術など持っていない。
そのせいで何度親戚に「落ち零れ」や「出来損ない」と言われたことか。
会う度に言われるこれに苛々して一時期グレた時があった。
あちこちと喧嘩したため、お陰でただの喧嘩は強くなったが。


しかし、喧嘩は戦いとは違う。


喧嘩なら子供だって出来る。
争い、戦いとなると命が関わってくるのだ。
自分の命を守れるほどの術を、は何も持っていない。
兄ならば『気』を操り、戦う術から守る術まで全てを使いこなせるのだが。


嫌な過去を思い出しつつ嵐を見ると、彼女は優しく微笑んでいた。



「やっぱり貴方がたは幸運なのかもしれませんね」


「「え?」」



小狼との声が嵐の言葉の後に重なった。
あまりの偶然に二人が顔を見合わせる。
嵐はクスリとその状態に笑った後、言葉を続けた。



「この世界には巧断がいる。もし争いになっても巧断がその手立てになる」


「ほ、本当に!?」


「ええ」



争いの手立てになる。
自分には何もない、にそれが手に入るのなら。

嵐の言葉に勢いよく喰いついたは、安堵の表情を浮かべた。
たとえこの世界だけでも、争いの何かに関われるのなら、それでいい。


『力』が、手に入るのなら。




「巧断って戦うためのものなんですか」


「何に使うか、どう使うかはそいつ次第や」



空汰が黒鋼を叩いたように用法は多々。
小狼の質問に答えた彼は、挑戦的な笑みを浮かべた。



「百聞は一見にしかず。巧断がどんなもんなんかは、自分の目で、身で確かめたらええ」



説明を耳で聞くよりも、自分が確かめた方が早い。
巧断は何なのか。
どういうものなのか。


それで、自分に何が出来るのか。





「さて、この国のだいたいの説明は終わったな」


「あ、ありがとうございましたっ!分かりやすかったっす、空ちゃん!」


「あれでかよ」



空汰の言葉に、がすぐさま礼を述べた。
遠くから黒鋼のツッコミが小さく聞こえたが勿論無視の方向だ。



「で、どうや」



小狼の手の上のモコナに視線と言葉が投げかけられる。
主語も述語もないため、質問の意図が分からないモコナは首を傾げた。



「この世界にサクラちゃんの羽根はありそうか」



真剣な眼差しが小狼、そして嵐と空汰から向けられる。
羽根があるかないかでこの世界で何をするかが決まってくる。
一番の重大なポイントの一つだ。
も紫苑の瞳をそちらへと向ける。

モコナは目を閉じて意識を集中させた。



「…ある。まだずっと遠いけどこの国にある」



心強い言葉。

もしその羽根を見つけることが出来たなら、今度は目覚めるかもしれない。
…いや、見つけ出さないといけない。

サクラが、生きるためには。



「探すか、羽根を」


「はい!」



小狼が勢いよく返事をする。
それはそうだ。
彼はサクラを助けるために異世界に来たのだから。

も隣で大きく頷いて、微笑んだ。



「俺も手伝うつもりっす」


「そうか!そら心強いな。兄ちゃんらも同じ意見か?」


「とりあえずー」


「移動したいって言や、するのかよ。その白いのは」


「しない。モコナ羽根がみつかるまでここにいる」



羽根を探す、探さない以前にモコナが動かない。
となれば、どちらにしろ羽根が見つからなければ移動できないということだ。
黒鋼が一人でムスッとする中、ほのぼのとした空気が流れた。
モコナに小狼がお礼を言ったところで空汰が立ち上がった。



「よっしゃ。んじゃこの世界におるうちは、わいが面倒みたる!侑子さんには借りがあるさかいな」



満足したように彼は微笑んで嵐の手を握る。
無視をするかと思ったが、照れているのか、困ったような表情を出した。
やはり夫婦、想いあってるだけはある。

空汰は手を握ったまま、ホワイトボードを玄関へと引きずり始めた。



「ここは下宿や。部屋はある。次の世界へ行くまでここに住んだらええ」



本拠地、というより滞在する場所の心配はなくなった。
それだけでも心は安らぐ。
ホッと安堵の息を漏らし、と小狼はお礼を述べた。

時計は十二という文字をとっくに回り、真夜中。
外は星空と街の明るさが少し灯っている。



「そろそろ寝んとな。部屋案内するで」


さんは私がご案内します」


「あ、はい!お願いします」



嵐に声をかけられて、はすぐさま立ち上がった。
お世話になるのだから機敏に動かなくては、と考えたまでだ。
空汰はそれを見て、ウンウンと嬉しそうに頷いた。



「頼むわ。おっとファイと黒鋼は同室な」


「はーい」


「なんだとー!?」



黒鋼は嫌らしい。
逆にファイはどうでもいいらしく、先程と同じ、気の抜けた笑みを浮かべている。
全く真逆の反応に、はケラケラと笑い出した。



「あはは、楽しそうで良かったじゃんか」


「よくねぇ!!」



こめかみに青筋。
眉間には皺。
見た目的には怒っているようにしか見えないが、…いや、軽く怒ってはいるんだろうが。
それでも、いつもそのような顔な気がしてくる。

と思えば全く恐くない。
むしろ真っ直ぐだなぁ、とは感心すらしてしまった。


玄関に歩み寄る後ろで、小狼とサクラがこの部屋を使うことが決まっていた。
本当ならば幼いとはいえ、女と男。
別々になることが当たり前なのだが、今はそれどころじゃない。


(…心配、だもんな)


生すら危うい状況。
それがずっと前から続いているのだ。
例え数分でも、大切な人が命の危機となれば数時間にも感じられるもの。

嵐がちゃんと眠らないといけない、と軽く促してこちらに足を運んでくる。



「ここはわいと嵐<ハニー>が守る。安心して寝たらええ」


「…はい」



空汰の優しくも心強い言葉に、小狼から安心という名の微笑みが零れた。
モコナも小狼の足元で手を振っている。
も同じように手を振り返した。



「おやすみ、小狼、モコナ。明日から頑張ろうな」


「うん、おやすみ〜」


「おやすみなさい」



眠る前の挨拶を交わす。
そしては小狼、モコナ、そしてサクラを残して部屋を後にしたのだった。







第漆話<<    >>第玖話